映画「サイボーグ009 超銀河伝説」作品分析

サイボーグ009』作品分析 2

サイボーグ009 超銀河伝説」という劇場用アニメーション映画は、1980年(東映)に公開されました。当時はまだ原作者の石ノ森氏もご存命で、幼い筆者はそのキャンペーンの一環なのか、わが地元にいらした先生のサイン会に行き、直接お会いして握手をしてもらいました。思い返せば、幼い心をあれだけとらえたこの作品が、私の人生を決定づけたと言っても過言ではないでしょう。映画化は初めてではないものの、時代時代によって、それぞれ解釈やサイボーグたちの描かれ方が違い、ロングスパンで比較考察するのも、面白いです。また、いつの時代でも受け入れられる普遍的なテーマを内包している作品だということもできます。

以下、「超銀河伝説」の簡単なプロットを説明します。

ブラック・ゴーストとの戦いが終わった9人のサイボーグ戦士たち。それぞれの国に帰り、平和な生活を送っていた。しかし、ある日突然宇宙からの訪問者が現れ、地球が危ないという警告をする。その鍵を握っているのが、ある星に幽閉されているタマラという女性。彼女を救出すべく宇宙へと旅立った009たち。しかし、そこで待ち受けていたものは、神をも超えた巨大エネルギーだった。

さて、作品分析にいってみましょう。はじめに、紅一点フランソワーズです。003というコードネームを持った彼女は、つねに001という赤ん坊サイボーグを抱いています。母性の象徴です。009の恋人という設定も明確に示されており、009が彼女によって迷いがなくなったことに対し、人生を変えてくれた女性として尊敬していることを暗示するシーンもあります。(ただ、原作では、彼女と009の母は一体化して表象されている箇所があり、003に母の面影を重ねる、典型的な設定パターンでもあります。)

そこに出てくるのが、美しい宇宙人タマラであり、自分を救ってくれたヒーロー009を好きになってしまいます。009も彼女に惹かれていきます。ここの理由はその美しさと、守ってあげたいという同情にも似た気持ちがあるので、男性性と力のつながりに対して、女性性と美と弱さの二項対立が明確にされています。003が恋人より母の表象という要素が大きくなり、欠如した恋愛対象(=性的欲望の対象)がタマラが表象することになります。

しかし、二人の女性キャラ、物語の重要な鍵を握ります。まずタマラは009のために命を落とすということの他に、外部からのメッセンジャーの役目をもっています。物語(特に冒険物語)には、外部からのメッセンジャーが話を機動する役割をもっていますので、このメッセンジャーがいないと、物語が進みません。

配置から考えると、ストーリーの進行と分岐点を、タマラ(つまり性的欲望の対象)が担います。そして、003はというと、ただ待っているだけの女性ではありますが、最後に宇宙の神を越える存在と009が融合してしまうとき、肉体に魂をとどめるかとどめないかの瀬戸際に、009をこの世界にひきとめるべき原動力となったのが、003なのです。つまり、ヒーローを救い、地球を救ったのは、母の表象であったわけです。

このことから、この映画における女性の機能は、メディエーター、つまり媒介者と解釈できるでしょう。そのほか、女性表象として、船(船は女性名がつけられるので、しばしば女性性として表されます)や再生としての水のイメジャリーなども、女性=メディエーター機能を説明してくれる要素ともなります。

このように、キャラクター設定、表象、背景、道具など、どのようなものがどのように配置、使用、表現されているか、に気をつけてみると、一つの解釈として女性の機能が非常に重要であるとこの映画に関して論じることができるでしょう。

この映画は、リーダーシップとしての009に注目してみても、男性性の表現がテクノロジーや力に結びついていることも論じられるでしょう。これもまた、面白いテーマです。そのほか、人種の表象も興味深い問題です。

筆者は映画が宇宙を舞台にしたことに対し、非常に残念な印象を持っています。009の武器である「加速装置」があまり使われていないこと。命令を聞かない007に対し「これは命令だ」と009が強いリーダーシップをとること。これは、原作の009を見ても、キャラが違うと思いました。つまり、009は最強だけれども、決して威圧的に8人を従わせようとしない、一種リーダー無き集団の一人なのです。それが、この作品が恒久的に受け入れられる原点の一つでもあると思うのですが、この映画ではそれが欠如しています。

それは「スターウォーズ」の脚本を手がけたスタッフが入っていたということで、スターウォーズ的なSFパノラマを全面に押し出したという理由もあるのでしょうが、個々のサイボーグたちの能力は、ほぼ発揮されないまま物語は構成されてます。

しかし、女性表象の面では、これほど際立った構成はなく、009をめぐる女性の伝統的な性的役割と表象を語るのに、うってつけの作品だと思います。

サイボーグ009 超銀河伝説 [DVD]

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