日本アニメーション学会 歴史・理論研究会 報告3

日本アニメーション学会 歴史・理論研究会 報告3

前回の続き。

もうひとつ分析されたのは、『魔法の天使クリィミーマミ』だ。

[rakuten:book:12017916:detail]

最近再ブームを起こしているこの作品、放映当時は、「女性の時代」ともてはやされ、新しいより強い自立した積極的な女性像が、メディアにあふれる一方、愛人バンク事件、女子高校生コンクリート詰め殺人事件、女児連続誘拐殺人事件など、80年代の女性と女性のセクシュアリティをめぐる状況が注目されていた時代だった。

マミの制作者側のコンセプトは、ラブ・コメ路線で、アイドルブームに乗っかる形での、アイドルへの変身(=労働の顕在化)そして、同じ労働でも、両親の労働を特に描くというものだった。魔法少女ものの中には、父親が正規雇用者として、主な稼ぎ手であり、物語に不在・不可視化し、母親は専業主婦、もしくは自宅での勤務などの設定がしばしば見受けられる。しかし、この作品は、ファミリービジネスで、両親の労働を主人公優(10歳)が手伝う、という労働の視覚化と、自分もアイドル歌手となって、労働し、大人の社会に入り込むという労働の視覚化の両方がなされている。

また、ボーイフレンド俊夫が最初から設定され、俊夫が、いわば理想化した自己である、変身後の「大人」のマミに熱狂し、現実の自己である優は、引き裂かれた自己を抱え込む構図となっている。

身体表象も顕著で、マミの身体(長い足、かわいい服、ふわふわとした髪)は、日本の価値観として構築されていた「カワイイ」を表象している。

これらのテキスト内の表象を、当時小学生だった視聴者はどうみるのか?それが、視聴者の質的調査によって、垣間見られる。発表者は、インタビューによって、今は成人となっている当時の『メグ』と『マミ』の女性視聴者の価値観、ジェンダーにまつわる問題、ファッション、生き方などを探っていく。

リサーチはまだ途中だということで、途中経過としての視聴者の意見がいろいろとだされた。圧倒的に「カワイイ」身体、ファッション、それにともなう、魔法と魔法の制御が言及された。魔法を使えることよりも、魔法を温存して、いかに努力するか、のほうへの関心が強いのも、発見だった。それでも、これが超能力だったり、ただの妖怪変化だったら、まったく違う文脈になっただろう。このあたりは、これから解明されるべき問題だ。

最後に、「女性向けジャンル」に関するテレビ学の問題系が列挙されたが、こと『魔法少女」ジャンルに関しては、フェミニスト・テレビ学は、有効だと思う。というより、この枠組みで研究されることが、まだ日本にはないので、結果が楽しみという感じである。

フロアからは、男性視聴者についての関心もあったが、それはこれからのプロジェクトとして計画されている。ちまたには、ロリコンとして魔法少女を消費、サーキュレートする言説があふれているが、果たして何がどう違うのか?これからも、このジャンルはいろいろな可能性を提供してくれるだろう。