日本のアニメーション (英国講義)2

注:これは2008年10月の報告を再掲したものです。

今日は、ヘレン・マッカーシーさんのレクチャーをまとめてみましょう。でも、実に早口で非常に広い範囲と長い歴史を概観したので、全てをまとめる事は難しすぎます。彼女のフォーカスを中心に、まとめることにします。

●ヘレン・マッカーシー「日本のアニメーション」

彼女のまとめ方も、時系列的に日本のアニメを追う、ということだったので、戦前戦後のアニメを概観、特に手塚治虫の功績を讃えていました。個人的に手塚が大好きだそうです。

そして、フォーカスは、アトムとロボット、人間のテーマに。

1)手塚の「アトム」と横山の「鉄人28号」ー機械と人間
彼らは、日本のロボットアニメのプロトタイプを作る。つまり、ロボットを、行為者と見るのか、乗り物と見るのか。アトムは心を持つロボットで、善悪の判断ができるが、鉄人は、操作する人間に判断をゆだねている。それが、70年代に入ると、永井豪の「マジンガーZ」で、ロボットと一体化する人間という路線が登場する。

(これは、人間と機械という、手塚や横山が追い続けたテーマが、どのように変遷していくか、という点で、とても面白いまとめ方だと思った。)

2)石森章太郎、冨野由悠季――人間の奥底
石森の「サイボーグ009」、冨野の「ガンダム」は、悪のオリジンは、人間である、というテーマを持っている。冨野のモビルスーツは、マジンガーZの場合と同じく、パイロットが機械の中に入って操縦するが、もっと機械との一体化が密になる。ロボット自体のデザイン化、玩具化が進み、視聴者は、物語やキャラ以外に、ロボットそのものへの関心として楽しむことができるようになる。

3)永井豪の「デビルマン
人間の悪、をとことん追及した作品。先のマジンガーZといい、他の作品(セクシュアリティの問題)といい、彼のバラエティと関心のありかは広い。

4)「マクロス
ロボットアニメの伝統を踏襲しつつ、恋愛の要素を持ち込んで、女性視聴者にも人気が出た作品。スタイリッシュな戦闘シーンは、非常に美しい。ミンメイよりミサを選んだ男は立派。

5)ボディアクション
ダーティペア」で確立された、女性同士のバディーもの(とは言わなかったけど)にボディアクションが加わった作品の流れは、アメリカで大ヒットした「ガン・スミス・キャット」で完成する。

6)インターネット時代の人間と機械
90年代のインターネット普及に伴い、アニメにも、コンピュータと人間というテーマが頻出。その流れと、伝統的なロボットテーマが合体したのが、庵野秀明の「エヴァンゲリオン」。そして、手塚のテーマへと回帰するのが、「エスカフローネ」。

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と、ざっとまとめるとこんな感じです。もちろん、時系列的に、他にも色々なジャンルにも触れていました。80年代が宮崎駿の黄金期だったと言い切るところも、潔かったです。

経済的なことにも触れ、今外貨が産業としてのアニメに流れていて、実はアメリカの巨大投資が、自国のアニメ産業に集中したら、という懸念があるそうです。でも、これはきっと、日本のプロ野球4番バッターが巨人に集中したらどうしよう、という懸念と似ているような気がしました。(巨人の例は言わなかったけど、ヘレンさんも、それで日本のアニメが追い越されることはない、と断言。)次に懸念すべきは、4番バッターがMLBに次々と行ってしまう事かもしれませんが。(マッドハウス、プロダクションIGがアメリカに行ったら・・・・うーん、考えにくいけど、オファーはあるという話はよく聞きますね)。

フロアからはいろいろな質問が出ました。その中で面白かったのは、吹き替えの問題。アメリカのみならず、欧米では実写映画も、吹替えが多かったりします。ほとんどは、オリジナル言語にかなわないのですが、ヘレンさんオススメは、ジャン・レノが吹替えた「紅のブタ」。これは、非常によかったらしいです。

私も質問させていただきました。以前学会発表した、セカイ系について。これは、ヘレンさんも面白い質問だと興味を持ってくださり、フロアの人からも、あとから話しかけられたりして、盛り上がりました。セカイ系の風呂敷は、実はこれから閉じられるのではないか、と私は密かに思っているのですが、それはまた後日書きたいなと思います。

(注:2009年現在、この報告をを読み返していたら、セカイ系は閉じる方向と、また別の新たな模索が生まれているようだと感じています。)

とにかく、とかくアニメの歴史を話すとなると、作品の羅列に終わってしまう講演も結構多いですが(それはそれで、非常に面白いですが)、ヘレンさんの「好み」と銘打たれた機械と人間のお話は、非常に興味深く、リサーチ材料にはとてもいいのではないか、と思います。

あと驚いたのは、これだけの日本アニメに関する知識と著作がありながら、本人いわく「日本語は話せない」だそう。疑わしいですが、逆バージョンで日本人でも、英語が読めても話せない人も多いので、本当なのかもしれません。

500 Essential Anime Movies: The Ultimate Guide (500 Essential...)

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