日本アニメーション学会理論歴史研究会 報告1

日本アニメーション学会理論歴史研究会 報告1
「越境するアニメーションーソユズムリトフィルムを中心に」
土居伸彰

土居氏はまず、ロシアのアニメーション製作が、国家の財政支援がなくなり、危機に陥っていることを説明。アメリカや日本など、アニメーションがビジネスとして成り立つ国とは違い、アートアニメーションの多いロシアでは、財政の欠如=製作中止に直結するので、深刻である。

この状況下、有名なアニメーション作家ユーリ・ノルシュタインが、
「ソユズムリトフィルム」という大きなスタジオを作って、体制をとる集団主義が提唱した。

ソユズムリトフィルム的な集団主義を継承するスタジオとして、ピロット・スタジオというのがあり、とくにウクライナ人「プラスティシーンのカラス』(1981)のタタルスキーと2006年に『ミルク』で有名なコワリョフ(コヴァリョフ)が設立した。

彼らの方向性を分けることになったのが、プリート・パルンという人物。

パルンは、エストニア人で、とにかく「異質なもの」にこだわったという。世界には異質な考え方を持つ人がいるということを主張するのがその目的で、全体主義に苦しんだエストニア人ならではの、主張と視点である。

ロシア語発音コワーリョフから、アメリカ英語発音コヴァリョフ両方もつ彼は、その後活動拠点をアメリカに移し、現在アニメーションの越境化がおこっている。共同制作、官民共同制作も増加している。

アニメーションについて、産業的な面、検閲、文化政策などの政治との関係性、観客など、さまざまな要素も加味して、アニメーション研究は続けられるべきである。

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以上の発表の中、短編上映も行われた。
特にコヴァリョフ『妻は雌鳥』という作品は、グロテスクな絵と物語が、夫婦の実情を描いていて、面白い。

ラピュタ阿佐ヶ谷で関連短編アニメーションが上映されるので、興味ある方は劇場に足を運んでみては?

http://www.laputa-jp.com/laf/film.html

 研究ノート 孤独のヒーロー

「孤独のヒーロー」

アニメーションの原作から、一つヒントをもらいましょう。

例えば、日本アニメの原作は、漫画が圧倒的多数を占めます。アニメ会社のオリジナルや、ライトノベル、ゲームが原作のものもありますが、やはり漫画原作が一般的でしょう。

その漫画が掲載されているのが、少年漫画雑誌などの週間誌、月刊誌です。今回は、少年ヒーローについて、考えてみるので、少年漫画雑誌に焦点を当ててみましょう。

類型化を行った三作品とも、「少年ジャンプ」という雑誌に掲載されていた漫画が原作でした。週間漫画雑誌には、他に「マガジン」「チャンピオン」、新しいものだと「ガンガン」などがありますが、ファッション誌などと同じく、対象読者層、とりあげるテーマが違っています。

くだんの三作品が掲載されている「ジャンプ」のテーマは、ずばり「友情、努力、勝利」。必ずしもそれに当てはまらない作品もありますが、基本路線はそれです。しかも、それを踏襲している漫画にヒット作が多いのは事実です。

ヒーローが孤独であることは、前回も指摘しましたが、「努力」する姿勢から、ヒーローを理解してくれる仲間ができ、「友情」が生まれます。敵と戦って、お互いの力量を認め合い、奇妙な友情が生まれる、というパターンもあります。(殴りあいのけんかをしたあと、二人で寝そべって、なぜか笑って、「おまえ、すげーな」「おまえこそ」「ハハハハハ(笑)」というベタな青春ドラマのようなものを想像してみて下さい。)

そして、たびたび敵が現れ、ヒーローたちを苦しめるわけですが、最終的には「勝利」を得るのです。

子供たち(特に男児)に伝えるメッセージとしては、非常にわかりやすく、かつ合理的です。それにそってヒーロー像も出来上がってくるわけですから、作品や作者が変われども、ヒーローに共通点が見られるのも、別段不思議ではありません。

作られたヒーロー像を、読者が後天的に受け入れ、それがヒーローであるものとして取り入れている、としたら、集合的無意識としての神話的原型の原則を崩せるかもしれません。

物語には、原型のようなものがあり、世界各地で似たような物語が作られている。それを人間が原始的にもっている集合的無意識と言われます。神話がそのいい例です。この説を採ると、結局主人公は、もともと人間が持っている無意識を具現化したものにすぎない、ということになります。

けれども、本当にそうでしょうか?

それは、すぐに否定できます。非常に単純に言ってしまえば、あるべきヒーロー像を「よし」としないひとも存在するし、「嫌い」と思う人もいるわけですから。それをただ例外として片付けてしまうには、あまりにもお粗末です。

後天的に構築されたもの。そういう立場で、考えたほうが生産的です。そして、そのようなヒーロー像を作る事によって、どういった現象が産まれ、私たちに影響を与えるのか。大事なのは、どういうヒーロー像があるのか、ではなく、どういうヒーロー像がいいものと思わされているものは何か、そしてどうやってそう思わされているのか、ということです。

そういうものの考え方は、フランスの哲学者ミシェル・フーコーという人が、試みています。アニメと関係ないと思われるかもしれませんが、一度フーコーを読んで見て下さい。

フーコー (「現代思想の冒険者たち」Select)

フーコー (「現代思想の冒険者たち」Select)

 研究ノート ヒーローの条件

『ヒーローの条件」

さて、くだんの類型化を何故せっせとやっていたか、の理由へとつながります。

というのも、世界で人気がでる作品には共通項がある、という「いまさら・・」という定説の裏にあるものをもう一度探って見たいという思いがあるのです。(本当は崩したいという願望も)

でも、ハリポタ、ナルト、ブリーチはほとんど共通項があり、ワンピースもほぼ共通するものがありました。少年向けアニメの人気のあるもののみで検証してみましたが、だいたい当てはまる項目だと思います。

そのうち、今日は人物設定。正統性のある主人公の出自。これはいったいなんなのか??? 

主人公は、ある種親の愛情に恵まれていなかったり、どこか社会からつまはじきにされ、酷い場合には苛めの対象にもなっているわけです。

そんな主人公が、自らの力に目覚め、あるいは目覚めさせられて、「実は王子様(特別な存在)だった」という「みながアッと驚く」出生の秘密を持っていたことがわかってくるわけです。

これは、少女向けのアニメ(魔法少女は特に)にも言えたりするのですが、読み手がどこかで「特別な高貴な存在」を欲望していたりするわけです。裏を返せば、「庶民、平民、フツーの子」が正体も「庶民、平民、フツー」で、非常に稀有な力を発揮するということは、ある意味「危険」なのかもしれません。

考えられるのは、封建社会で生まれた物語(の原型)は、秘密の出自(実は高貴な生まれ)があるほうが、社会システムの転覆の契機を引き込まずにすむから。こんな政治的理由と、人間の深層心理の中に、ヒーローは特別であり、自分があこがれて、同一化したい時は、自己実現になり、同一化しない時は、自分との差異を認めて、自分の劣等感を納得させる理由にできるから、という心理的理由もあるのかもしれません。

すでにこんなことは言い古されているとは思いますが、ではどうして、こういうものが今多いのか?しかもアニメに。これは結構言われていそうで言われていない側面かもしれません。

物語の構造分析

物語の構造分析

物語の構造分析 [ ロラン・バルト ]
参考資料。バルトの小説論、映画論は必読です。

 アース・ビジョン 地球環境映像祭 アニメ短編映画上映

地球デーにそくして、地球環境に関する短編映画の上映があるそうです。7日には子供向けですが、アニメ短編もあり、地球環境を考えるには、いい機会だと思います。


以下、転載記事。

アース・ビジョン 第17回地球環境映像祭

3月6日(金)14:00〜19:35
3月7日(土)11:00〜19:05
3月8日(日)11:00〜最長20:30
* 8日の終了時刻は、アース・ビジョン大賞受賞作品により異なります。
>
> ◆会場◆
> 四谷区民ホール(東京都新宿区内藤町87番地 四谷区民センター9階)
>  →東京メトロ丸ノ内線新宿御苑前駅」大木戸門方向(2番)出口
>   新宿通りを四谷方向へ徒歩約5分
>
> ◆参加◆
> 協力費1日1,000円 高校生以下無料・事前予約不要
> 3日間通し協力費(カタログ付き)一般2,000円 学生1,500円
>
> ◆主催◆
> アース・ビジョン組織委員会 http://www.earth-vision.jp

 手塚治虫アカデミー 4月期

手塚治虫は、漫画家としても、アニメーター・プロデューサーとしても、数々の名作を残してきました。今年は、ハリウッドの『鉄腕アトム』リメイクも公開される予定で、手塚ブームがまた再燃しそうです。

昨年から始まっている、手塚を知るための「手塚治虫アカデミー」なる講演会が、またあります。

http://info.yomiuri.co.jp/event/06001/200809267134-1.htm

今期はアニメ論、アート論、「火の鳥」論で、どれもおもしろそうな企画です。

私は昨年、「少女マンガ」論の講演に行きました。パネリストは、手塚治虫の長女るり子さん、里中満智子さん、萩尾望都さん、藤本由香里さんで、女の子トーク満載で、非常に楽しかったです。

これは江戸東京博物館で行われるので、講演会に参加した前後に、博物館(有料)を観るのも、楽しいですよ。

参加希望の方は、申し込みが必要ですので、お早めに。(定員オーバーの時は、抽選になるようです)

ちなみに、私が衝撃を受けた手塚漫画は、『アドルフに告ぐ

新装版 アドルフに告ぐ (1) (文春文庫)

そして、手塚漫画原作アニメでは『ふしぎなメルモ

[rakuten:geoeshop:10539322:detail]

メジャーな作品がクローズアップされる中、どちらもあまり批評対象にあがっていませんが、重要な作品です。

 赤塚不二夫&石森章太郎企画展

東京の青梅市赤塚不二夫会館という記念館があります。
3月14日から、これまた有名な漫画家石森章太郎石ノ森章太郎)の原画展示企画展をやるそうです。

http://akatsuka-hall.omjk.jp/menu/menu.html

石森作品で有名な「サイボーグ009」。今年は、2009年で、009の年だそうです。

赤塚も非常に重要な漫画家であり、日本のアニメの原作としても、特にギャグアニメや女の子アニメに多大な影響を与えています。

そして、石森の漫画は、アニメだけでなく、特撮の原作としても、実に幅広いテーマを扱っています。

この二人のコラボで、常設と企画展が観られるチャンス。早く着いたら、昭和レトロ館なども見学してみるといいかも。

[rakuten:auc-antiquaire:10000665:detail]

仮面ライダーSPIRITS―受け継がれる魂 (KCDX (1551))

仮面ライダーSPIRITS―受け継がれる魂 (KCDX (1551))

 日本アニメーション学会主催の上映会と研究発表、討論

非会員でも参加でき、無料の講演会です。アニメ研究の最前線を体感してみよう。


日本アニメーション学会 理論・歴史研究部会主催 公開研究会」

◆日時:2009年3月14日(土) 14時〜17時
◆場所:日本大学芸術学部江古田キャンパス 東棟1階 E-102教室
(最寄り:西武池袋線江古田駅 北口より徒歩3分)
案内図:http://www.art.nihon-u.ac.jp/about/campus/map.html
(「江古田キャンパス」平面図の上方にある裏門(南門)から入場)
◆参加費:学会員、一般参加者とも無料です。
◆プログラム:以下の3つのセクションで構成されています。

1)上映と解説
 土居伸彰(東京大学大学院)
 「越境するアニメーション——ソユズムリトフィルムを中心に」

○要約
国や地域、社会・政治体制、個人のフィルモグラフィーの枠内で語られがちな海外のアニメーションではあるが、実際にはその境界を越えて、さまざまな関係が錯綜している。そこで今回は、旧ソ連圏のアニメーションにおけるその複雑な絡み合いについて、フョードル・ヒトルーク以降のソユズムリトフィルムを出発点として、現在の金融危機後のロシア・アニメーションの展望という終着点に向かって考えていく。作家間の影響、社会・検閲制度と個人表現、エストニアウクライナといった隣国との交流、社会主義と資本主義など、さまざまな関係性について考察することで、今後アニメーション研究がほどいていくべき様々な解れを提示することを目的としたい。

○上映予定作品
『霧の中のハリネズミ』(1975) 監督:ユーリー・ノルシュテイン
『妻は雌鳥』(1989) 監督:イーゴリ・コワリョーフ
『I Feel a Lifelong Bullet in the Back of My Head』(2007) 監督:プリート・パルン、オリガ・マルチェンコ(オムニバス・アニメーション『Black Ceiling』(2007)から)
(他1作品)


2)研究発表
 須川亜紀子(青山学院大学
 「魔法少女TVアニメーションの「フェミニスト・テレビ学」的読みの可能性」

○要約
日本では1980―90年代にかけて、フェミニズムは女性学のオルタナティヴとして使用され始め、女性に纏わる様々な研究がなされてきた。メディア研究分野においても、フェミニズムは「ジェンダー本質主義」としての女性ジャンル研究を手始めに採用された。アニメーション作品もジェンダー表象や視聴者調査に関するメディアテキストとして、特に90年代以降は「ジェンダー研究」の枠組みで研究されている。特にテレビ研究は、映画研究に比べて後発だが、カルチュラル・スタディーズにおいて重視されている女性メディア研究の一つである。
 本発表では、日本の少女向けアニメーション作品群である「魔法少女TVアニメ」というジャンルをとりあげ、日本における「フェミニスト・テレビ学」的アプローチに対する可能性を探る。その具体例として、70−80年代の人気魔法少女TVアニメ『魔女っ子メグちゃん』、『魔法の天使クリィミーマミ』の作品分析と視聴者調査の一部を紹介し考察する。

3)討論会
 テーマ:「アニメブーム論」の試み
 討論者:原田央男霜月たかなか
小川敏明
津堅信之
土居伸彰

○要約
 日本のアニメの歴史や特性を解読する際、「アニメブーム」という語が頻繁に使われるが、「アニメブーム」の定義や時期については、さまざまな見解があり、論者や研究者間で統一がとれていない。このことが、日本のアニメ史研究にとって重要なテーマであるアニメブーム研究を進める上で支障をきたしている。
この討論会では、こうした現状を受け、研究者という視点から少し離れて、アニメファンがブームをどう受容していたのかという視点から出発し、複数の世代を交えて、ブームの特性や意義を議論するものである。このため、「鉄腕アトム」、「宇宙戦艦ヤマト」、「機動戦士ガンダム」、「新世紀エヴァンゲリオン」の各作品放映時に、それぞれ少年〜思春期にあった4人の研究者が、当時を回想しつつ、「アニメブーム論」を試みる。


◆参加方法
 以下の申し込み用アドレスにて、事前に参加申し込みをお願いいたします。お名前、ご所属、アニメーション学会員/非学会員の区別、連絡先(電子メールアドレス等)を明記の上、お申し込みください。なお、当日直接お越しいただいても入場できますが、参加者にお渡しするレジュメの部数に限りがあり、レジュメを配布できない可能性があります。
 参加申し込み用メールアドレス:sympo08@jsas.net